新刊トリケラトプスNo.2 5月29日掲載分
(1)壬生義士伝 上・下 浅田次郎
著 文芸春秋 鈴木 輝一郎 選
(2)ぼんくら 宮部みゆき著
講談社 神田 紅 選
(3)退屈姫君伝 米村圭伍著
新潮社 末國 善己選
「義」に生きた最後の武士
「壬生義士伝」は、骨太男の一代記。
南部藩の足軽吉村貫一郎は、尊王攘夷の志をたて脱藩して新撰組に入る。
鍛え上げた剣術で頭角を現すが、全てはお金のためだった。
南部に残した妻子を何とか食べさせるための後半生。「身分」や「貧しさ」は、努力や精進では如何ともしがたい時代だったのだ。幼なじみの親友大野次郎右衛門との絆の強さは、息子の代まで受け継がれていく。その友情物語を中心に据え、50年後の新撰組の生き残りの人物の証言などをおりまぜて、「義」に生きた最後の武士吉村の実像に迫っていく。息子は父親の後ろ姿を見て育つの言葉通りの父と子。「こんな親子もこんな男らしい男も、もう絶対に居ない」と大声で叫びたくなったが、作者の筆の力の前に3度も涙があふれた。 紅評点 3.0トリケラ
「ぼんくら」は、さすが宮部みゆきさんだと感心。
江戸の長屋の何でもない日常が、生き生きと描かれて、イッキにその謎解きの世界に入ってしまう。鉄瓶長屋に起きたある殺人事件をきっかけに、住人が一人一人と逃げ出していく。そこには何か訳がありそうだと、乗りだした同心井筒平四郎。その飄々とした性格がほのぼのと全体を包んでいる。出てくるキャラクターもそれぞれに魅力的だ。
情緒豊かな文体で結末まで導いてくれる。 紅評点 2.5トリケラ
「退屈姫君伝」は、肩のこらない落語のような時代小説。
消費者金融の宣伝の姫を思わせる、めだか姫が大活躍。
田沼意次の鼻を明かす大団円。 紅評点 2.0トリケラ