新刊トリケラトプスNo.14 10月1日掲載分

(1)かずら野 乙川優三郎 著/幻冬社/神田 紅 選  紅評点 2.5トリケラ

時代は幕末。松代藩の足軽の娘、菊子は家族の糊口(ここう)をしのぐため糸師山科家へ奉公に出される。彼女を待ち受けていた過酷な運命により男と出奔。流浪の人生の果ての結末は・・・

夢枕獏著/朝日新聞社/鈴木 輝一郎選 紅評点 2.5トリケラ

平安朝を舞台にした官能怪奇短編集。鬼と交わる女、鬼と双六をして女を得る男、百鬼夜行に加わる男、の3話が収録されている。ストーリーは簡素で、妖艶な天野喜孝の挿画を引き立てている。

(2)鬼譚草紙
中村隆資著/講談社/末國 善己 選  紅評点 2.5トリケラ

一部族の族長の地位を離れ、<連合>全体を守る<公人>の長である帝になった尭。理想の君主として語り継がれる尭帝の治世を一年の移り変わりの中に描き出した中国歴史小説。

(3)尭帝春秋

男と女の腐れ縁に人の世思う

かずら野」は、かずらのつる草のように、盛んな生命力を持った「女」という生き物を観察し続けた粘り強い作品だ。菊子の奉公から、物語は悲恋もののように始まる。
 幼なじみの静次郎との別れはほのぼのだが、その後は仕えた主人のために身も心もずたずたに。そしてその主人を、実の息子でありながら殺した富治との出奔。恋の逃避行でも何でも無い。男と女の腐れ縁とでも言うべきなのだろうか。重苦しい。

静次郎との再会に、新しい女の生き方を期待したが、見事に裏切られる。地道に生きる意味、男とは、女とは?様々な事を考えさせられた。
鬼譚草紙」は、「陰陽師」が映画になろうという、作者お得意のオドロオドロしい世界。怪しげでエロチック、肩の凝らない人間と鬼が織りなす物語三話。
紀長谷雄や、都良香、菅原道真などの名前がちらほらなのもうれしい。芸術家は心が鬼となって初めて、鬼の姿が見えるのかもしれない。朱雀大路で鬼と歌詠みの勝負をしたり、双六をしたり、百鬼夜行の行列に混じってみたり、リズミカルな文体に乗って楽しめる。
装丁や絵も含めておしゃれな作品だ。
尭帝春秋」は、中国の古代物語。尭帝がどんなふうに国を治めたか、人心をどう掌握したのか、哲学風の問答で書かれていて興味深いが、個人的には漢文調の言葉の羅列に圧倒され少々疲れた。
それでも今の政治家にぜひ読んでもらいたい、清貧の帝ではある。