新刊トリケラトプスNo.13 8月6日掲載分

(1)重蔵始末 逢坂 剛 著/講談社/末國 善己 選    紅評点 2.5トリケラ

北方探検家として有名な近藤重蔵の若き日の活躍を描く捕物帖。
愛用の鞭(むち)を手に、同心の橋場余一郎、配下の根岸団平を使い、
機知と独自の戦略で悪を追いつめる全5編を収録。

黒須紀一郎著/作品社/神田 紅 選   紅評点 3.0トリケラ

役小角にたどり着く系譜を持った浮浪の民「鉢屋」に出自を置いた秀吉の出世物語。母の仲も妻のお寧も実は同種の出で、秀吉の天下取りは、そのカスミ(ネットワーク)による力が大であった。

(2)鉢屋秀吉
北森 鴻 著/文藝春秋社/鈴木 輝一郎選 紅評点 3.0トリケラ

評価の差の激しい明治期の政商、藤田傳三郎が巻き込まれた「明治12年藤田組贋札事件」に材をとった作品。幼なじみで棒術と絵の達人である、宇三郎をアウトローとして対比して描いている。

(3)蜻蛉始末

英雄支えた陰のネットワーク

鉢屋秀吉」は、お馴染みの秀吉の出世物語だが、その陰には鉢屋衆の働きがあったことが強調されている点が興味深かった。「役小角(えんの おづぬ)」についての著述もある作者ならではの系譜から物語が始まる。そのややこしさを克服すれば、後は一気に天真爛漫な少年秀吉が現れて、大河ドラマを見るように、戦国の乱世を活き活きと駆け抜けていってくれる。
特に母の仲や妻のお寧は、実に頼もしい存在だ。その筋のネットワークの人々の助けがあったればこそ、桶狭間の戦いも墨股の一夜城も成し遂げられたのかと、大いに納得させられた。
蜻蛉始末」は、明治の初めの偽札事件が背景と知って、ちょっと取っつきにくさを感じたが、読んでいくうちにドンドン引き込まれていった。政商藤田傳三郎の伝記だが、傳三郎とその陰のような存在の、「とんぼ」こと宇三郎との因縁の深さが心に重い。長州の奇兵隊時代から生真面目で気の弱い傳三郎は、維新後の新政府でその商才をかわれて軍部に利用されていく。その行く末を心配する宇三郎との間には、皮肉な結末が・・・。
時代に翻弄された男達の悲劇。強い感動と衝撃が残った
重蔵始末」は、推理小説の大家が初めて本格的に取り組んだ時代小説。お得意の推理も織り交ぜた独特の事件五話は、意外性もあって面白い。若干20歳の与力の重蔵は、どこか臈長けた青年で女心も理解できるニューヒーローだが、キャラクターが定着するのはこれからだろう・・・。