新刊トリケラトプスNo.12 7月2日掲載分

(1)忍術忠臣蔵外伝 霧島那智 著/実業之日本社/鈴木 輝一郎選  紅評点 2.5トリケラ

「松之廊下」の刃傷事件の沙汰に不審を抱いた徳川綱豊は、水戸雑賀忍群を使って浅野家臣にあだ討ちをさせようともくろむ。阻止すべく徳川綱吉は黒鍬忍群を赤穂へ送るが・・・

半村 良 著/毎日新聞社/末國 善己 選   紅評点 2.5トリケラ

鹿沼から江戸へ出てきた亥吉と千造。時は18世紀末、江戸では町人文化が成熟しはじめ、2人は時代の先を読みながら、次々と商売を成功させていく。幕末を描く一代記。

(2)すべて辛抱 上・下
鳥羽 亮 著/祥伝社/神田 紅 選      紅評点 3.0トリケラ

宮本武蔵の巌流島の決闘から、生涯の宿敵柳生兵庫助との闘いまでを描く剣豪小説。武蔵の殺人剣に対し、兵庫助は人をいかす活人剣。戦国の世から江戸の初めを背景に2人の生きざまは対照的。

(3)覇剣

希代の剣豪の孤独ひしひし

今回は甘い恋愛部分のない、男の世界が描かれた作品ばかりだった

覇剣」は、剣豪宮本武蔵の孤高の人生が、ひしひしと伝わって来る。無敵の剣豪となって出世を果たそうとした武蔵だが、時代は戦国の世から太平の世となり、人を倒す殺人剣は必要がなく、柳生兵庫助の活人剣が主流となっていく。
時代に取り残されていく武蔵の姿や、兵庫助に対する嫉妬や焦りなどの心理描写、剣道三段の作者ならではの闘いの場面も見事だ。おぼっちゃんの兵庫助より、孤独の剣豪武蔵の方が魅力的。つい大菩薩峠の机龍之介を思い浮かべた。
忍術忠臣蔵外伝」は、私たち講談の世界ではお馴染の「義士外伝」とも言うべき裏面史。今年は刃傷松の廊下の事件から三百年。タイムリーでもあり、あくまで忍者の闘いに視点を徹したあたりが新鮮だ。黒鍬者が赤穂城に菜種火薬油を仕込むところや、対する雑賀者が忍犬を使うなどの手法は、ほんとかいなと思わせて楽しい。が、赤穂城明け渡しで物語があっさりと終わってしまうのが残念。忠臣蔵のイメージが変わってしまいそうだが、続編も読んでみたいものだ。
すべて辛抱 上・下」は、江戸の末期を背景にして、いち早く先取りの商売を次々と考え出していく亥吉と千造の日常と友情が、淡々と語られていく。2人が鹿沼の田舎で妙粋和尚にに教えられた処世術は、現代でも十分に通用しそうだ。鹿沼にいる母にはついに会わずじまいなのが、気になって仕方なかったが、男同士の絆の強さに涙。