新刊トリケラトプスNo.11 5月28日掲載分

(1)覇商の門 火坂雅志 著/祥伝社/神田 紅 選

戦国時代、裸一貫から身を起こし、一代で堺の豪商で茶人となった今井宗久の波乱の人生物語。織田信長の天下盗りをいち早くよみとり、私財をなげうってこれに助成した彼の先見の明の源とは・・・

一条理希著/徳間デュアル文庫/鈴木 輝一郎選

「ジャパネスク・ファンタジー」とある通り、具体的な時代や場所を特定せず「民話」に近い雰囲気を維持している。村々に出没する鬼を、退治できる力と鬼鋼の剣を持つ「鬼童」真那の道中記。

(2)鬼童来訪起の章
諸田玲子著/集英社/末國 善己 選

今川家重臣の娘として家康に嫁いだ築山殿。やがて岡崎入りした築山殿は、姑・於大との果てしない確執に苦しむことになる。武田方に内通した悪女と去れる築山殿を新解釈でとらえた作品。

(3)月を吐く

孤独な野心家の魅力ふんだんに

戦国時代のような激動の時代にはあまたの個性的人物が誕生するが、その人間模様は現代と少しも変わらない。

家康の正妻の築山殿と言えば、気位の高い女として描かれがちだが、「月を吐く」では哀れさと可憐さを兼ね備えた女主人公になっている。今川家の姫に生まれ、華麗に生きてきた半生を描いた前半部分。無駄な言葉を極力排した詩を読むような文体に慣れるころには、彼女は運命に弄ばれるように敵方の家康の正妻になって、苦しみはじめる。家康の母於大との嫁姑の確執はまさにバトル。
その間で適当に双方に対処する家康のずるさ。女性作家ならではの観察眼の鋭さを感じた。
圧巻は幼なじみの高橋広親との悲恋の最後。涙が流れてしかたがなかった
 紅評点 3.0トリケラ
覇商の門」は、戦国大河ドラマとしての醍醐味を味合わせつつ、生きる悲哀までも感じさせる大作だ。今井宗久と織田信長の共通点は「野心」。お互いに「天下盗り」を狙っていた。そのための茶道であり、鉄砲の商取引である。女も商売の道具としてしまう宗久のような孤独な野心家は、現代ではとんとお目にかからない。いたらやはり惚れるだろう・・・などと思った。読みやすさは流石で、戦国の世の多くのヒーローが次々と登場するのも魅力。
 
紅評点 2.5トリケラ
鬼童来訪 起の章」は、民話ファンタジー。鬼伝説の冒頭はエスプリも効いて面白い。
途中エイリアンやプレデターやもののけ姫をつい想像してしまったが、「鬼童」真那の恋や鬼退治は、娯楽性に富んで楽しめた。 紅評点 2.0トリケラ