新刊トリケラトプスNo.10 4月16日掲載分

(1)金目銀目五万両 渡辺房男 著/新人物往来社/末國 善己 選

近代的な通貨体制を作るため新政府が出した銀目停止令で、臼杵藩の借財五万両が消えた。だが、その先は思わぬ展開が待ち受けていた。藩の財政責任者を軸に経済の維新史を描いた異色作。

白石一郎著/NHK出版/神田 紅

チンギス・カンからクビライ・カアンまでのモンゴル帝国の血の系譜と、鎌倉時代の北条時宗に至るまでの一族や御家人の争いを表裏に描き、蒙古襲来の起因と実戦をさぐる、歴史よもやま物語。

(2)蒙古襲来
領家高子著/講談社/鈴木 輝一郎選

タイトル通り、九郎判官源義経にまつわる短編集。義経本人は登場せず、伝聞によって義経を語るスタイル。短編集の例に漏れず、出来不出来に若干の波はあるが、五作収録の中で、「千本桜」が良好。

(3)九郎判官

海に詳しい著者ならではの描写

蒙古襲来」は小説ではなく、新聞連載の歴史エッセイ。「海狼伝」で直木賞をとった海洋冒険小説のベテラン作家が、あえて解りやすい言葉で淡々と書きつづった点を評価した。元寇はとにかく難しい。時のクビライと時宗は、どちらも内憂外患を抱えていた。血を血で争う一族の殺戮や領土の拡大などを、丁寧に交互に描いてゆく。モンゴルも鎌倉も似たような状況だったのだ。そんな二人の宿命の出会いは、蒙古襲来に収斂してゆく。クライマックスは決戦の場、鷹島沖に居並ぶ大船団。海や船を知り尽くした著者ならではの描写はまさに見て来たよう。これを元にして、小説「蒙古の槍」に続く大作を是非とも書いて欲しい。
 紅評点 3.0トリケラ
金目銀目五万両」は、現在のデフレ現象を彷彿とさせる経済小説だ。江戸が明治に変わる激動期、相場の変化をいち早く察知した臼杵藩の勘定役久野喜三郎の一喜一憂が面白い。江戸の金目と大坂の銀目の変動を利用して、上手く藩の借財を五万両も帳消しにした前半は、一気に読めた。
しかし、その後のどんでん返しがスピード感に欠ける。喜三郎の苦悩を表すため、あえてテンポを遅くしたのか。喜三郎の生真面目な性格は、今の政治家への批判でもあろう。お金を預かる人はいつの世もこうあって欲しいものだ。
 
紅評点 2.5トリケラ
九郎判官」は、義経の周りの弁慶や静御前、西行や頼朝の想いがつづられたモノローグ風
短編集。発想はステキで内容も語彙も豊富だが、小説の羅列という感じはいなめない。
朗読劇には最適だろう。 紅評点 2.0トリケラ