本牧亭の灯は消すまいぞの巻
安藤鶴夫さんという人の書いた「巷談本牧亭」をご存じですか。昭和39年に直木賞を受賞した小説で、講談定席(講談を定期的にやっている寄席、安政年間は江戸市中に220軒もあった講釈場も、戦後はたった1軒本牧亭だけになってしまった)である「本牧亭」を舞台にして、そこに集う人々の人間模様を描いた作品だ。
舞台となった本牧亭は上野広小路にあったもので、戦後、上野鈴本の大旦那が末娘の石井英子さんに、「やってみないか」とまかせた寄席である。テレビの台頭と共に客足の遠のいた寄席を、個人の資産で運営していくのは並大抵のことではなかったであろう。小説のモデルとなった「おひで」こと石井英子さんは、42年間その灯を消すまいと頑張り続けたが、残念ながら平成2年1月10日をもって休席となってしまった。たたみ40畳敷き、収容人数200人の広い客席を備えていた本牧亭で、私は10年間修業をし、休席の1ヶ月前に真打ち披露興行(幕引き興行)をやらせてもらえたのだから、有り難いことだ。
さて、本牧亭の灯はその2年後、平成4年7月に、長女孝子さんによって再びともされることになる。1階は以前の本牧亭同様の日本料理屋。トントンと階段を上がるとそこは30人ほど入れるこじんまりとした座敷があり、キチンと高座がしつらえられ、その上に釈台がデーンと置かれている。本牧亭再開の後はお客様も少しづつだが確実に増えているし、若い講談の入門者も途切れることがない。寄席の大きさではなく、やっぱりヤル気が問題なのだ。本牧亭の灯は大女将から女将さんへシッカリ受け継がれた。後は時代に呼応した講談を語れば、講談ブームも夢ではないような気がしてきた。今度は女将さんをモデルにした講談を創ろうかしら・・・・。